マジェスティS aRacer RC Super2 チタンゴールド セッティング編④
aRacerのセッティング編④です。前回のセッティング編③の続きになります。今回はiViewを使い、オートチューンで設定した範囲、もしくはカバーできなかった範囲のマップを過去の走行ログをもとに微調整する方法を記載します。iVewはパーツのセッティングにも使える非常に強力なツールです。この方法は、走行ログを範囲指定して行うセミオートチューンよりも細かい粒度で調整することができます。
※aRacerは取り扱いを誤るとECU本体やエンジンを損傷するリスクがあります。よくわからない場合は信頼できるショップに相談しセッティングを進めることをおすすめします。
①走行ログの取得
①まずは走行ログを取得しますが、目的を持って短時間で取得するのが基本です。普段何気なく走ったようなログはセッティングにはあまり適しません。ログの量が多いとどこで何をしたのかわからなくなりますし、ダウンロードにも時間がかかります。取得したいパターンの走行を行った後、できるだけ早くPCとECUを接続して走行ログをPCにダウンロードします。RC Super 2の走行ログは50分間隔で古い時間のデータが上書きされ、エンジンをかけずイグニッションをONにした状態でも記録は進んでいます。
※手間がかかるので普段は使いませんが、走行ログはスマホアプリのaRacerSmartでも取得可能です。モニター上の”Start Data Logging”をタップするとログ記録が開始され、再度タップするとログ記録が終了します。ログは”Log View”メニューの中に保存されます。ログが一覧表示されている画面で各ログを左にスワイプすると”Share”ボタンが表示されるので、メールに添付したり、スマホ本体に”.loga”拡張子のファイルとして保存することができます。それをPCに送ればiVewで開くことができます。PCを持ち出しておらず緊急的にログを取りたくなった時には使えます。
②SpeedTuning Super2を使ってECUに接続
AMSファイルからSpeedTuning Super2を起動しECUに接続します。接続後、左上の”ECU Data Log”にあるICアイコンをクリックします。
③ログの時間範囲を指定
“ECU Data Log”のウインドウが表示されますので、”Cycle record”の中で取得したい時間(過去何分前までか)をスライドバーで指定し、”Read Start”ボタンをクリックします。
④ログのダウンロード
データダウンロード中はボタンが”Reading”に変化します。時間のカウンターが進んでいきますが、途中で止まってしまった場合はダウンロードに失敗しています。過去の経験上、バッテリー電圧が低い場合は失敗しやすいです。最低でもbLink2の接続要件である11.5v以上は確保して下さい。また、こちらにも記載していますが、iModeを接続した状態でダウンロードするとデータが欠損する場合があります。
⑤ログをPCに保存
ログのダウンロードに成功すると自動的に”名前を付けて保存”のダイアログボックスが表示されます。いつ走行したものなのか、最低限日付と時間を入れておくと管理しやすいです。
⑥iViewの起動
ここからはオフラインで作業できます。まずはiViewを立ち上げます。とりあえずはSpeedTuning Super2上から立ち上げれば良いですが、こちらに記載があるようにiVew用のショートカットを作成しておくと複数立ち上げてログ比較もできますし便利です。右端の”Quick Setting”をクリック後、iViewのアイコンを表示してクリックします。
⑦走行ログの読み込み
iVewのアプリケーションが別ウインドウで立ち上がります。iVewを使う際は表示できる範囲が広い大きいモニターが複数あると便利です。また、データを細かく見ていくので画面表示は最大化して使うと良いと思います。データを読み込むため、左上のファイルアイコンをクリックします。
⑧ログファイルの指定
先程ダウンロードしたログファイルを指定して開きます。
⑨iVewのカスタマイズ
デフォルトの表示パラメータでは情報が不十分なので、使いやすくカスタマイズします。iVewにはグラフを表示する領域が縦に6つ並んでいます。一つのグラフ領域で指定できるパラメータは2個となり、合計12個のパラメータを一画面上で表示することができます。各グラフ領域上でマウスを右クリックしPlot-1(1個目のパラメータ)とPlot-2(2個目のパラメータ)を指定していきます。
⑩表示パラメータの指定
例えば、”Vehicle_Speed”を指定する場合はGeneral > Vehicle_Speedと進んで指定します。
⑪指定パラメータの推奨設定
私が通常指定しているパラメータは以下です。今回はこのパラメータが設定されていることを前提に説明します。
■上から一段目
・Plot-1: Vehiecle_Speed(ECU上のスピード)
・Plot-2: 無し
■上から二段目
・Plot-1: RPM(エンジン回転数)
・Plot-2: Time(時間)
■上から三段目
・Plot-1: Cyl1_Final_VM(エンジン吸気量)
・Plot-2: Fuel_CL(クローズドループ補正%)
■上から四段目
・Plot-1: Cyl1_Injector_period_Rate(インジェクター使用率)
・Plot-2: AFR(ターゲット空燃比)
■上から五段目
・Plot-1: AFR_WBO2_CAL(ワイドバンドO2センサーによるリアルタイム空燃比)
・Plot-2: Cyl1_Eng_AP(吸気圧力)
■上から六段目
・Plot-1: TPS_Percent(スロットル開度%)
・Plot-2: T_Eng(水温)
⑫iVewの見方
iVewの基本的な見方について説明します。”1”の黄色い点線は、画面左側に表示されているパラメータのグラフ上の位置です。マウスの左クリックで掴んで位置を移動させることができます。”2”はログの時間軸です。右端に899.9と表示されていますが、このログは全体で過去15分(900秒)のデータを表示しています。
右側にいくほど新しい走行データ、左側にいくほど古い走行データになります。”3”のプラスとマイナスの虫眼鏡アイコンはグラフのスケールを拡大/縮小するためのボタンです。マウスのホイール操作でも拡大/縮小は可能です。セッティングを行う際は拡大してピンポイントでデータを見ていくことになります。
“4”の青色の範囲はセミオートチューンで使うデータを範囲指定する際に使用します。青い範囲の端をマウスの左クリックで掴んで範囲を広げたり狭めたりします。今回は使用しないのでそのままで大丈夫です。
⑫iVewアプリを一旦終了
iVewのカスタマイズが完了したらiVewのアプリを一旦終了します。アプリ終了後も指定したパラメータ設定は残ったままです。
⑬AMSファイルを開く
微調整を行うAMSファイルをSpeedTuning Super2で開き、”D3Cyl1_VM”を表示します。AMSファイルの保存方法と開き方、”D3Cyl1_VM”の表示方法は「セッティング編③」に記載しています。右上の”iView Tracking”のアイコンをクリックします。作業用のAMSファイルは、作業ミスに備え、必ずバックアップしたファイルをコピーしたものを使って下さい。
⑭走行ログのサンプル
iVewアプリが別ウインドウで立ち上がりますのでログファイルを開きます。今回使用するサンプルは0-100km/hの全開走行を3回行ったデータです。赤枠の部分を使います。中央の黄色点線で示しているデータは、3998回転、VMが250、ワイドバンドO2センサーの値が11.3、吸気圧が95.469、TPSが100 %(スロットル全開)です。iVew上のVMは”D3Cyl1_VM”上のVMを単純に表示しているだけで、Fuel_CL(クローズドループ)で補正されていても値は変化しません。
⑮”D3Cyl1_VM”上の表示
iVewでファイルを開くと”D3Cyl1_VM”上にiVewで表示しているデータが反映されます。”D3Cyl1_VM”上のデータを見ると、吸気圧96.3、回転数4000回転の位置に「+」マークが来ていることがわかります。11.3がO2センサーの空燃比、214はaRacerが走行データから計算して出しているVMの推奨値になります。この後、この推奨値をもとにマップを手動で書き換えていきます。
⑯走行ログと現状マップの比較
グラフ上の黄色い点線をマウスでドラッグしてアイドリング状態の位置に移動してみます。ターゲット空燃比13.3に対してリアルタイム空燃比は13.1です。
マップ上のVMは163、推奨値は164なので、アイドリング領域については問題なく燃調できていると判断できます。
⑰ログを読み解く
次は100km/h付近に合わせてみます。スロットルは全開なのでTPS100%、VMは279で、リアルタイム空燃比は12.7です。ターゲット空燃比は12.8なので、それに合わせるため、Fuel_CLで燃料を8.203%増量していることがわかります。留意点として、この増量(もしくは減量)されている値は必ずしも推奨値のVMと一致しません。
Fuel_CLで増量していることからもわかるとおり、設定されているVMでは燃料が薄いです。ですので、マップ上の281に対して推奨値は300と表示されています。ちなみに、Fuel_CLの値がマイナスの場合は燃料を減量していることになりますので燃料が濃い状態です。
3本走行しているので、他の100km/h付近、同回転数のデータも見てみます。リアルタイム空燃比は先程の走行が12.7に対し、こちらは12.8でほとんど差はありませんでした。
VMの推奨値は295となっています。
⑱マップの修正
295と300を比較し、今回は濃い目の300を採用してマップを手動で書き換えることにします。色がグレーに変わっている4箇所のセルに300を入力します。入力された値は赤色で表示されています。今回は4箇所のセルを書き換えていますが、他のセルに影響しそうであれば必要に応じてその周りのセルも書き換えたり、もっとピンポイントで書き換えたいのであれば「+」マークが表示されているセルのみを書き換えて下さい。
⑲スロットル全開直後のログ確認と修正
次はスロットルを全開にした直後のログを見てみます。
このタイミングではFuel_CLで補正は効いていませんが、リアルタイム空燃比が12.1を示しており濃いようです。
⑳ここも同じように他の走行ログを比較検討して値を変えていきます。今回は推奨値の229を入力します。
㉑グラフを拡大した状態で黄色い点線を右に一段回進めてログを見ます。
㉒こちらも同様に値を入力します。
㉒修正したマップの保存
同じ流れでログの時間軸を進めながら値を入力していきます。赤い箇所が修正した部分です。修正対象のセルが重なる場合は入力対象のセルを4つより少なくしたり、場合によっては「セッティング編③」で説明している”linearity”や”Smoothly”使い、重なる範囲の値を調整して下さい。作業が完了したら、画面左上のフロッピーディスクアイコンをクリックして上書き保存します。
㉓ECUにマップを書き込み
保存したマップをECUに書き込みます。書き込み方法は「セッティング編③」に記載しています。
㉔実走行して確認
書き込んだデータを使って同じパターンの走行を行い、修正したマップが適切かログのFuel_CLの値を見ながら再度確認します。大きくずれているようであれば、調整作業を繰り返して下さい。Fuel_CLの値で補正状況を見ていると、設定したマップに比べ多少のズレが出てしまうのは普通ですが、10%以上の補正はクローズドループですべきではないとaRacerの指標があるので10%を超えるズレは積極的に修正すべきです。
マップの微調整が使えそうなケース
今回はサンプルで0-100km/hのログを抽出して使いましたが、オートチューンでカバーできなかった領域のセッティングや、調子がイマイチな回転域、アフターファイヤーが頻発する回転域等、今回の方法で調整できると思います。また、オートチューンを何度もやっているのにFuel_CLの補正幅が大きく、うまく調整できない場合も有効です。
セッティング編⑤へ続きます。